こんにちは、職人の髙田です。今年の4月にMITUBACIで働き始めてもうすぐ半年。仕事がだんだんと手になじんできて、技術的にできることも増えてきました。でも同時に、「これでよかったのかな?」と立ち止まることも増えた気がします。半年という節目は、成長を感じる時期であると同時に、自分の中のまだまだな部分を痛感する時期なのかもしれません。
MITUBACIのワークショップでは、お客様が作ったリングの最後の仕上げを職人がやることがあります。そこで小さな傷やくもりを見つけたら磨き直しをするのですが、そんな自分にとっては特別ではないごく普通のことで、「プロですね」と言ってもらえることがあります。そう言われるたびに、少しはっとします。「自分って“プロ”なのか…?」と。お客様から見れば、きっとそうなのでしょう。でも、正直自分の中ではまだ「自分はプロである」と胸を張れる自信がありませんでした。正確に言えば、“プロ”と呼ばれることにどこか引け目を感じていたのだと思います。技術も経験もまだまだ途上。そう感じている自分がプロと呼ばれることに、少し居心地の悪さを覚えていたんです。そんなことを考えるうちに、「プロフェッショナルって何だろう」と考えるようになりました。技術があること?仕事のスピード?それでお金をもらっているということ?どれもきっと正しいけれど、それだけじゃない気がしました。
一緒に仕事をしている先輩職人たちを見ていると、そんな問いへの答えの輪郭が少しずつ見えてきます。ベテランの先輩たちの手元には無駄がありません。仕上げの順番、使う道具、力の入れ方、そのどれにも迷いがない。けれどただ手が早いわけでも、慣れているだけでもない。動作の一つ一つにしっかりと判断がある。「どうすれば一番きれいに仕上がるのか」をずっと考え続けてきた結果なのだと思います。意識せずにやっているように見える動作の中にも、彼らがこれまで考え続けてきた時間が刻まれているように感じます。

Photo by Akira Nakamura
以前、ある先輩がこんなことを言っていました。
「お客さんの要望に応えることは大切だけど、最終的にどう見えるのかを決めるのは職人の仕事。だからそれを判断する自分の感性も信じていい。」と。この言葉を聞いたとき、少し腑に落ちました。お客さんの要望と自分の美意識。そのあいだで揺れながらも、最終的に責任を持って「これでいこう」と判断する。その姿勢が、職人であるということ、プロであるということなのかもしれません。
私はこれまで、「技術を極める」ということに少し距離を感じていました。どちらかといえば考える方が好きで、意味とか背景ばかり気にしてしまうタイプです。作業をしていても、「なんでこれをするんだろう」と立ち止まってしまうくらいには、ちょっと面倒くさい性格だと思います。だから黙々と練習して技術を磨く、ということにどこか怖さがありました。うまく言えないけれど、同じことを繰り返しているうちに自分の感じ方まで固まってしまうような気がしていたんです。
でも、先輩たちの仕事を近くで見ていて、その考えは少しずつ変わっていきました。よく観察してみると、先輩たちはただ“慣れ”で動いているわけではなくて、ひとつひとつの動作の中にちゃんと考えや判断がある。繰り返しているようで毎回少しずつ違う。素材の性質や道具の状態を見極めながら、「どうすれば一番きれいに仕上がるか」を探っていく。その判断の積み重ねこそが「技術」なんだなと思います。
それからは、技術を磨くことの意味が少し分かってきた気がします。技術を上げるというのは、ただ手を動かす練習を積むことではなくて、自分の考えていることを現実にできるようにする力をつけることなんだと。たとえば、頭の中で「もうちょっとこういう質感にしたい」と思ったときに、それをちゃんと形にできるようになる。ぼんやりとした考えを言葉にしたいときに、自分の感じていることを表す“語彙”が増えていくような感覚です。できなかったことが少しずつできるようになると、「次はこんなふうにやってみよう」と思える幅が広がっていく。最近はそんな瞬間が増えてきて、単純に「上達するって楽しいな」と思うようになりました。

少し話が変わりますが、私は柴田聡子というミュージシャンが好きです。彼女の書く歌詞はどこまでも私的で、空想から生まれているような、可笑しくて可愛らしいかんじのものが多くて、それがうまく言葉にするのが難しいのですが、すごく魅力的。初期の曲はどこか泥臭さというか田舎っぽさ、舌足らずさのようなものがあって、それが彼女のメルヘンだけど少し毒のあるような独特の世界観を作っていて、私はその“洗練されてなさ”みたいなのにすごく惹かれていました。
そんな彼女の曲ですが、去年出たアルバム「Your favorite Things」を聴いたとき、すごく驚きました。彼女らしい詩の世界はそのままに、全体がぐっと洗練されていて、あの独特の世界観がポピュラーなかんじに昇華されていたからです。これはアルバムを聴いた後に、彼女がアルバム全曲の解説をしている記事を見て知ったのですが、彼女はそのアルバムでは、かなり構成やメロディを意識的に組み立てたそうなんです。感覚に任せるだけではなく、「どうすればいい曲になるか」を計算し実践している。これまで感覚的に生まれたものだと思っていたものが、実は緻密に考え抜かれてつくられていたーそのことに強い衝撃を受けました。あれほど自由で個性的な作品が、感覚や偶然だけでなく、技術と構成力のうえに成り立っている…柴田聡子、すごすぎる、まさにプロだ…と興奮してしまいました。
「作品が少し自分の手を離れることで、人に聴いてもらって恥ずかしくないものになる」と語っていた彼女の言葉にも、プロの意識を感じました。自分の世界観を衝動の赴くままに投げ出すのではなく、人に届く形で差しだす。それがプロの表現なんだなあと、改めて思わされました。
大好きな柴田聡子さんの話が少し長くなりましたが、彼女の音楽を聴いていて思ったのは、偶然や感性だけに頼らず、経験と技術を駆使して自分の判断に責任を持ち、作品を形にしているということです。その姿勢って、職人の仕事にも近い気がします。私たちも、ジュエリーを作る現場で、感覚に頼るだけでなく、どうすればもっと美しく仕上がるかを考え、道具や素材と向き合いながら形にしていく。その積み重ねこそが“プロ”の素質を育てていくのかなあと彼女の音楽のことを考えながら改めて感じました。(「Your Favorite Things」めちゃいいアルバムなので、よかったら聴いてみてください!)

プロフェッショナルってなんだろう。完璧な技術を持つこと、迷いなく動けること、それ以上に、自分の判断に責任と自信をもつことなのかもしれません。「これでいい」と自信を持って言えるところまでやり遂げること、そして、その「いい」を自分の中でちゃんと育てていくこと。この半年、少しずつそんな意識で仕事に向き合うようになりました。一見同じ作業でも、お客様の要望に応えたい!という気持ちで仕事に向き合う。その中で、毎回自分なりに考え、感じ、判断していく。そういう時間が日々を少しずつ豊かにしてくれている気がします。これからも変化していく自分を見つめながら、たくさんのことを感じ考えながら仕事をしていきたいです。

そしてMITUBACIには私が自信を持って「すごい!プロだ…!」と言える職人たちがたくさんいるので、ぜひ遊びに来てくださいね。ご予約お待ちしております!
ここまで読んでいただきありがとうございました!


